一人きりで眠る夜。
私は久しぶりに、子供の頃の夢を見た。
村にはレナードという名前の、二つ年上の男の子がいた。
彼は、村にある教会に預けられ、神父様と暮らしていた。
出会いは、季節が夏へと移りつつある麗かな午後。
彼は、誤って池に落ちて溺れていた私を助けてくれた。
その瞬間から、私は、彼に恋をしてしまったのだと思う。
優しくて、頼もしくて、私に色々なことを教えてくれた。
私は彼が大好きで、いつか彼の花嫁になりたいと思った。
彼は村で暮らす、他のどんな男の子たちとも違っていた。
礼儀正しくて、物知りで、難しい書物でも難なく読めて。
髪の毛から指の爪まで、彼はいつでも小奇麗な身なりで。
そんな彼だから、彼を好きだという女の子も多かった。
けれど彼はその子達ではなく、私を選んでくれたのだ。
あれは、彼が姿を消す前日のことだった。
私達は朝早く、こっそりと教会の中へ忍び込んだ。
静まり返った礼拝堂の厳かに、思わず身が震えた。
愛し合う男女は、教会で、神様の前で、愛を誓う。
もちろん私は詳しいことなど、何も知らなかった。
ただ、純白のドレスを着た美しい花嫁なら見たことがある。
花嫁に憧れる私のために、彼が計画してくれたことだった。
向かい合って、互いの手を取り合う。
窓から差し込む淡い朝日に照らされて。
彼の淡い金色の髪は、きらきらと輝いていた。
「シルファ。僕はきっときみを幸せにする」
「レナード。私も、あなたと幸せになるわ」
それは、見様見真似の子供騙しであったけれど。
祭壇の前で、花で編んだ冠と指輪とで愛を誓った。
病める時も健やかなる時も、共にあろう。
あの幼い私は、彼との未来を心から信じていた。
その翌日に彼が姿を消してしまうとは知らずに。
神父様に尋ねても、教えてはくれなかった。
ただ、悲しそうな顔をして、首を振るだけ。
神父様も、それから数年経って、亡くなってしまった。
彼がどこに行ったのか、それを知る人物はいなかった。
彼は自らの意志で村を出ていったのか。
或いは、何者かにさらわれたのか。
或いは、何かの事故だったのか。
手掛かりはなにもないまま、時間だけが過ぎていった。
叶うならもう一度会いたいと、何度も思った。
けれど結婚が決まった時、その想いも捨てた。
好きでもない男の妻となる私には、不要な想いだから。