僕達を繋いでいるもの
「あたしたちはもっと愛し合うべきだと思うの」
そう言って彼女は僕を押し倒した。
「なにがしたいの、小夜ちゃん?」
手足をシーツの上に投げ出して、僕が問う。
「愛し合うの」
寝転がる僕の上に乗っかって、彼女は答える。
その声はとても真面目で、決して悪ふざけではない。
「ゆうくんだって、そう思うでしょ」
僕は答えない。彼女も答えなど求めていなかった。
腰まで伸びた黒髪が、僕の胸で渦を巻く。
短いスカートから覗く白い太股が、目に眩しくて。
小さな肩から伸びる細い腕を、掴んで、シーツの上に引き倒す。
「きゃ」
か細い悲鳴。
僕達の上下はいとも簡単に入れ替わる。
そのことに、彼女は不満げに眉根を寄せる。
そんな表情すら可愛らしくて、愛おしかった。
「愛してるよ、小夜ちゃん」
お決まりの台詞を吐けば、彼女は満足したように微笑む。
こんなことは、毎夜のように行われる、単なる戯れなのだ。
「違うの」
でも、今日は。
彼女は身動ぎして、僕の腕から逃れる。
僕に跨って、僕を見下ろして、僕を見据える。
黒い瞳は、とてつもない色香を漂わせていた。
「男と女は、ちゃんと愛し合わなきゃ、一緒にいられないの」
熱っぽい声と、震える吐息と、伝わる彼女の体温。
誘うような繊細な動きで、指先が、僕の頬を撫でた。
「言葉だけじゃ、駄目なの。言葉は、すぐに壊れちゃうから」
そうだねと僕が呟けば、彼女は真っ直ぐな眼差しをして笑う。
いつも無邪気な笑顔を振り撒くのに、今は口の端だけで。
「……本当に、いいの?」
僕が問えば、彼女は頷く。
示し合わせたような、お決まりのやり取り。
けれど寄せられる唇に僕が触れることは無い。
時折、彼女は僕の身体を弄るけれど。
いつだって、それ以上の行為に進むことはなかった。
「小夜ちゃん」
か細い、白い肩が、怯えるようにびくりと揺れた。
大きな、黒い瞳が、濡れ震えながら僕を見つめる。
その姿は、天敵に追い込まれた小動物を思わせる。
「こんなことしなくたって、僕は小夜ちゃんが好きだよ」
そうして彼女の頭を撫でてやる。
すると彼女は涙を止めて、やがて眠る。
あどけない寝顔はまるで小さな子供のように。
「ねぇ、小夜ちゃん」
――僕達はいつまでこうしていられるのかな。
そうしてまた、夜が明ける。